- 作者: 佐々木俊尚
- 出版社/メーカー: ディスカヴァー・トゥエンティワン
- 発売日: 2010/04/15
- メディア: 新書
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読んでいるうちに、佐野さんの「誰が本を殺すのか」を思い浮かべた。2001年に発刊されたその本は、本書と比べると「書き手」側の視点がやや薄めだが、本の制作から流通、ストック、そして電子出版にまで言及したものだ。10年近くたった今、当時よりも書籍を巡る状況がよくなったということは全くなく、寧ろ、一層「本離れ」が進んだと言って良い。そして電子出版も当時よりもずっと現実的になってきている。
そんな時代背景を掴むかのように(実際に掴んだのだと思いますが)発刊されたこの本。電子書籍が普及するためにまずデバイスが必要であること、流通や販売のためのプラットフォームがカギを握ること、コンテンツ制作自体がより直接的かつ局所化しつつあること、そして現在の出版/流通業界の持つ問題点に分けて、書籍等コンテンツの生産消費サイクルを分析し、解説している。
思うにデバイスまわりの話はともかく、コンテンツ生成から流通の部分については、単なる「ルールの仕切り直し」が起こっているだけなのではなかろうか。書籍流通の過程で勝者が決まり(つまり個人は専門業者に太刀打ちできない「専業化」が決まり)、より売れるものにしようと「仕掛け」を工夫し続ける時期がある。そうこうしているうちに売る側の露骨な下心に消費者側にも気づき、白ける。 マスをターゲットにした「売れる」商品を作ったつもりが、誰一人、本当に自分に向けられたものではないことに気づいている。
そんな中で、改めて「個人から個人へ」というコンテンツの制作・流通方法が注目を浴びている。そういうことではないだろうか。単に、新たに1からスタートするグループがでてきた、というだけのことである。この「個人から個人へ」でもてはやされている人たちも、それほど時を置かずに「より多くの人に届けたい」と思うようになり、あるいは事務作業を手伝ってくれる人にお願いをし、新たな「専門業者」ができあがるであろうと、私は考えている。(この話は主に本書で紹介されている「音楽を直販する人」のエピソードを念頭に書いている)
いずれにせよ、従来の柵(しがらみ)が既に本質を見誤らせる程に複雑化している今、「電子出版」というのは新たなルールの柵の頂点に立つための争いをしているのではないか。本書を読んで、そのような思いを強くしたのでありました。
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