- 作者: 一色正春
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2011/02/18
- メディア: 単行本
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中国の軍人が乗った漁船が日本の巡視船に体当たりをした事件のビデオを YouTube に公開した、あの、sengoku38氏こと一色氏の告白本。
当時、マスコミ報道に目を牽くものは、まったくと言って良いほどなかったが、インターネット上の議論を見ていると少なからぬ人が、専門家とおぼしき人を交えつつ、それぞれが真剣に考えを整理していたように感じた。料理人(マスコミ)が都合良く調理した後の情報ではなく、生の情報が提供されることの強みを強く感じた出来事だった。
ビデオが公開された時、多くの人が「国家機密」的視点からの論を表明していたが、私の興味はそれとは異なっていた。海上保安庁であれ一般の会社であれ、組織内の情報が組織の決定を経ずに、権限を与えられていない一構成員によって外部に提供されることがあってはならない。そうでなければ組織が組織たる所以がなくなってしまう。今回流出させた sengoku38 氏は、何を考え、どの程度「イキオイ」で、どの程度の覚悟を決めて、この「一般的に当然なルール」違反を犯したのだろう。それが私の当時からの関心だった。
本書にはそれがすべて書いてある。これにより失うものの多さ。組織自体を含め迷惑をかける関係者の多さ。それらすべての覚悟を決めるまでの葛藤は想像に絶する。失うものばかりで個人的に得るものがない(得るとしたら、映像公開を礼賛するアブナイ組織の方々が名誉職に呼んでくれるくらいだろう)。 組織論の中で必ずしも氏の取った行為を評価することはできないが、その思いの強さと覚悟の深さには敬意を表したい。
残念なのは、この本が「煽りAERA」の朝日グループから出版されたこと。98%減くらいに割り引いて読まなければと、誰もが思うだろう。この負の期待に反して、本書の編集さんは、この微妙な問題を、とても上手にまとめてくれたと思う。一色氏が伝えたかったこと。わびたかったこと。それが絶妙の温度感で詰まっている。
国/マスコミ連合側の言い分ばかり耳にしている諸氏は、もう一方の当事者側の言い分を聞くために本書を一読してはいかがだろう。
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