sakaikの日々雑感~日常編

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ツール・ド・フランス2010第15ステージ

 なんとも後味の悪いステージでした。

 マイヨジョーヌを着たアンディ・シュレックが、登り坂でメカトラブル。それを知ったコンタドールは他の選手と一緒に猛スピードで走り続け、念願のマイヨジョーヌを獲得しました。さぞ嬉しかったことでしょう。


 この件でも世界中で多くの賛否が表明されたようです。擁護派が語ることは当然すぎる事実を並べたにすぎず、相変わらず薄っぺらな反応に感じました。一方でコンタドール批判派の中にも、単純に感情で反応しているだけの、説明根拠の薄いものも散見されます。

 ここでは「あのコンタドールの行為は何だったのか。何故あれほどまでに批判を浴びるのか」について、我々が求めているものとの差という観点で考察してみたいと思います。


 まず擁護派の個々の論に対して、賛同をしておきます。

●AGREE

  • 勝負なのだからタイムを稼げるときにはいかなる場合でも稼ぐのがプロだ
  • ルールに「ライバルがトラブルで遅れたら待つこと」なんていうのは、ない

●ついでにDISAGREEも

  • コンタドールシュレックのトラブルを「知らなかった」のだから仕方ない<うそつけ
  • すでに加速を始めていたのだからスピードを落とすのは無理<うそつけ
  • シュレックは卑怯だからコンタも卑怯でいいんだ<そうなんですか?

 ルールを理由に擁護する人は、おそらく「ルールにないことはすべてやってよい」という主義なのでしょうか。「ゴール後にタイヤで他の選手を殴ってはいけない」というルールは(調べていませんがおそらく)ないと思いますが、あの罰金処置に対して抗議をするのでしょうか。自転車レースが「ルールのかたまり」になり「ルールの抜け道を探す勝負」と化すことを歓迎しているのでしょうか。

 このことからも「ルール」というのは単に最低限守るべき合意を表したに過ぎず、ルールへの記載有無が行為の評価を左右する尺度には成り得ないことは、容易に理解できると思います。

 念のため強調しておきますが、私も今回のコンタドールの行為は「ルールにはなんら違反していない」(だから罰金も降格もペナルティタイムもない)と認識しています。


 ではなぜここまでコンタドールは批判を浴びるのか。マイヨジョーヌの表彰式でブーイングと嘲笑のまじった手荒い歓迎を受けたのか。それは我々が、マイヨ・ジョーヌに求めているものが何か、ということに由来します。

 ランスが7連覇を終えたあとのツール・ド・フランスには「王者」は一人もいませんでした。毎年「結果として総合タイムが1位になった選手」がいるだけです。この状況にはファンとして辟易しています。だから今年のジロでバッソリクイガスがチーム一丸になって総合を「獲りに行った」ことを高く評価し、バッソを「王者候補」と認めているわけです。

 我々は「王者」を求めています。「王者」に定義はないので、人それぞれの心の中で求める具体像は異なるでしょうが、本質として「人として尊敬できる、憧れる選手」という面があるかと思います。ツールで勝ったことない選手と一緒に逃げたら、勝利をプレゼントするとか(そんなルールありません)、そういう状況で少し多めに引いてあげたり風よけになってあげたりするとか(そんなルールありません)、2つ以上のものを求めない(総合獲ってるのにスプリント狙ったり山岳狙ったりしない)で分け与えるとか(そんなルールありません)。そういった「人としての慈愛と余裕」と言ったものに憧れるのです。 「ライバルが(トラブルで)遅れたら待つ」というのも、そんな格好良さのひとつです。実力でない部分での遅れに対してつけ込むのではなく、仕切り直してから改めて実力で勝負をする、そんな姿勢に憧れているのです。


 コンタドールの今回の行為は、こういった我々の「あこがれ」を踏みにじってくれました。ツール・ド・フランス3勝目を目指す選手に集まる期待は「王者」の誕生です。チャンピオンが欲しいのです。しかしコンタドールが見せてくれたのは、「とにかく秒数を稼いで、最終的にタイムが1位になる」だけの選手の行動でした。残念です。

 「期待に応えなければならない」というルールはありません。ですが、ファンとして、ツール・ド・フランスに期待している「実力での勝負」を踏みにじったコンタドールは、今後何年にもわたって負の烙印を押されることは間違いがないでしょう。

 私にとってコンタドールは、アイトール・ゴンザレスオスカル・ペレイロ(これは別に彼が悪いわけじゃないけど巡り合わせ的に)、そしてメルカドと同じレベルにまで、評価が落ちました。 もしかしたらこれって、朝青龍に感じた憤りと同じ性質のものなのかな(土俵外の行為ではなく勝負そのものについて。相手が既に出ているのにさらに一押しして相手をふっとばすとか、とても王者横綱と呼べるものではありませんでした)。



 で、肝心のレース本体ですが、ヴォクレーが逃げ切り勝利しました。ゴール前の、勝利をかみしめるかのような長いプレウィニングランが素敵でしたね。いい笑顔だったなー。ヴォクレーは「巡り合わせ的に」マイヨジョーヌを着て、その後数日「しがみつくように」ジャージを守ったという印象が強く残っていますが、巡り合わせの運だけで終わらずにその後も活躍しているのが、嬉しいですね(^^)。


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