sakaikの日々雑感~日常編

sakaikの日々の雑記。食べ物、読み物、お出かけ(旅行)などなど

エビデンス主義

 和田さんの本は嫌いじゃないのだけど、どうもこの本は肌に合わない。

なかなか変わらぬ現実に対する和田さんのイライラ感が伝わってくるかのようでした。変化しない現実に対してイライラで対応することは、何の効果も生まないということは氏も重々承知のはず。なのに、何故このようなスタイルで上梓されたのか。編集者の色でこうなってしまったのなら、今後は編集者を変えた方が良い。そう、残念に思わざるを得ない、一冊でした。


 主張は至極まっとうで、「昔から言われているというだけの理由で信じ込むな。ちゃんと考え、数字(統計)と向かい合おう」ということだと、私は理解しています。

 実際の治療(手術や投薬の効果として謳われていたことの「うそ」)や、社会現象(自殺やダイエットへの大衆操作)などの豊富な例をもって、統計数値をもとに最適解を模索する重要さを説いている本です。


 ただし、ともすれば数値はその読み方次第でどのようにでも主張できるのが統計数値というもので、非のない解釈を持って数値が利用されていることなど、日常ではほとんど見ることがありません。因果関係の存在しないところに「もっともらしい説明をつけて」因果関係を主張するということがまかり通っているからです。

 この「もっともらしい」という部分が、本書でも最も厳しく糾弾されている部分であり、本当にそうなのかと疑うことこそが真実への通路だということになるわけですが、現実世界では判断に十分な統計数値が全て揃っていることなどほぼなく、限られた情報から類推をまぜつつ判断を繰り返すわけで、結局は「数字は、見る。だけど正直、本当かどうかわかんないんだよねー」というのが実のところなのではないかと思うのであります。 著者が批判している「数字なんか関係ない!」という素振りをしている人たちも、もしかしたら統計自体を無視しているのではなく、統計の信憑性に対して疑問を呈しているに過ぎないのではないか、という解釈も起こってきます。

 著者が本書で例として挙げた「戦争の開始によって自殺報道が減った途端に、自殺者の数も減っている」→「だから普段も自殺関係の報道は派手にすべきではない」という主張も、発生した事実と数字だけから解釈すれば、「自殺者を減らすには戦争に限る。よし!自殺対策として戦争をしよう!」という主張だってあり得るのです。(もちろん私はこの発想は無茶だと思うし、著者の主張のほうが正しいと感じています。しかしその判断基準は、そちらのほうが「もっともらしく感じる」から、という、本書で判断基準としては批判されているレベルのものなので、もしかしたら私が違和感を感じる判断のほうが、真実に近いのかもしれないという状況を想像するにつけ、やはり何か気持ち悪いものが私の中に残り続けた、そんな1冊でした。


.